
「よそ者」の視点で地域を再発見する
地域の方には当たり前でも、その地域の外の人(よそ者)にはなにかワクワクするものに映るモノ・コトがあります。北海道栗山町で実施した「雪のバス停プロジェクト」も、地元の方には厄介者だった雪を、よそ者の視点でものづくりの材料として捉え直してみることから始まりました。
旅するものづくり工房をなぜ始めたのか、そして、「ものづくりをしながら、旅をする」ことを通して、なにを目指しているのか、ご紹介します。
旅するものづくり工房は、軽トラックの上に載る、DIYで作った移動型の工房です。3Dプリンターやレーザーカッター、工具など、様々なものづくりの道具を載せた旅するものづくり工房。どんな場所でも、すぐにものづくりを始めることができます。
この工房とともに日本各地を周りながら、それぞれの地域でフィールドワークを行い、その土地の「地域らしさ」を読み解き、ものづくりを通してカタチにしていきます。
地域にフィールドワークに出ると、住民の方によく「ここには何もないよ」と言われます。でも僕は、その言葉を聞くたびに「むしろ、なんでもある」と感じてしまいます。何気ない慣習や日々の暮らし、納屋に眠っている古材。地域の人には当たり前すぎて見えていないものが、初めてその場所を訪れた僕には、どれも面白く見えるのです。
滋賀県米原市世継
湧水の水槽・洗い場「かなぼう」
なぜ、そう感じるのか。その原点は、「土着建築」にあります。
学部時代から建築を学んできましたが、いわゆる建築家が手がけた近代建築よりも、農道を歩いていてふと出会う、住人が自分の手で作ったような小屋や、謎の工作物に強く惹かれてきました。誰かが設計したわけではないのに、なぜか「生きている」ように感じる構造物。こうした建築は、広く「土着建築」と呼ばれています。建築家バーナード・ルドフスキーが『建築家なしの建築』で紹介しているように、世界中にこうした土着建築が存在します。
山口県角島
もっとすごい土着建築に出会えるはずだという仮説を持って、学部2年の時にインドへ行きました。ブッタガヤで見つけた「土の家」は、まるで粘土工作のような家です。棚が欲しければ壁を掘り、キッチンが欲しければかまどをこねて作る。あらかじめ図面を引くのではなく、暮らしながら自由自在に形を変えていく家でした。
もう一つ、世界一雨が降る村と言われるチェラプンジで出会ったのが「生きた木の根の橋(Living Root Bridge)」。洪水がくれば普通の橋は流されたり腐ったりしますが、生きた木の根を編んで作られたこの橋は、根が張っているから流されず、生きているから腐りません。土着建築を見ていると、その土地の材料、気候、歴史、そして暮らしまでもが伝わってくる。建築そのものから、その土地の生き様が見えてくるような感覚でした。
ただ、こういう話をすると「インドだから面白いのは?」と思われるかもしれません。でも、そうではないと思っています。どこであっても、人が住んでいれば必ず営みがあり、営みがあれば、そこには必ず何かしらの形が生まれます。それが地域の人にとっては当たり前のものだったり、ときには厄介なものだとしても、よそ者の目から見れば、想定外の面白さがきっとあるはずです。
僕はこれを「タネ」と呼んでいます。地域にあるモノ・コトの一つひとつがタネです。そこに住む人にとっては、日常の中に埋もれてしまっているけれど、確かにそこにある。
それなら、そのタネを探しに、いろいろな地域へ行ってみたい。見つけたものを、ものづくりやデザインの力で少し違う形にしたり、違う見方をして、地域の人に返してみたい。その積み重ねこそが、地域の魅力を引き出し、人と人をつなぎ、新しい地域との関わり方を生み出していくと信じています。なので、僕は旅をしながら、ものづくりをするという活動「旅するものづくり工房」を始めました。
滋賀県長浜市
黒壁の黒!黒漆喰の看板をつくろう(2026年8月)
身の回りにすでにあるどんなものでも、みかたを少し変えてみたり、手を加えたりすることで、もっとワクワクするものになるはず。社会にはワクワクが咲くタネがたくさん落ちています。そのタネを探し、それを育て、ワクワクを咲かせることを、僕は目指しています。
散歩やフィールドワークを通して、
タネとなるモノ・コトを探します

リサーチやスケッチを行い、
そのタネの観察をします

タネをもとに、プロトタイプの
制作やデザインを考えます

そのタネを知る人も知らない人も、
ワクワクするような、
新たなモノ・コトをつくります

タネをクリックして、拾ってみようタネをタップして、拾ってみよう

地域の方には当たり前でも、その地域の外の人(よそ者)にはなにかワクワクするものに映るモノ・コトがあります。北海道栗山町で実施した「雪のバス停プロジェクト」も、地元の方には厄介者だった雪を、よそ者の視点でものづくりの材料として捉え直してみることから始まりました。

いま日本の多くの地域が過疎化や人口減少に直面しています。地域おこし協力隊や移住支援の制度も広がり、地方に定住する暮らし方・働き方は増えていて、一定の効果もあると思います。ただ、地域は数多ある中で、そうした制度を導入できる自治体ばかりではありませんし、「一つの地域にずっと住み続ける」ということ自体、これからの時代にはますます難しくなっていくはずです。
だからこそ、定住するのでもなく、観光で通り過ぎるのでもない、よそ者として移動しながら地域に関わるあり方を、まちづくりや地方創生のひとつの形にできないかと考えています。

ものづくりの道具を積んだ移動型の工房で、日本各地の地域を訪れます。イメージとしては、北海道から青森へ、そして少しずつ南へ。最後は沖縄まで。ひとつの場所に留まらず、いろいろな地域でタネを掘り起こしていきたいですし、ゆくゆくは、ある地域でやったことを別の地域に持っていき、組み合わせるようなこともできたらと思っています。
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士2年
小林博人研究会所属
幼少期から折り紙や工作などの「ものづくり」に夢中になり、中学2年のときに出会った「ファブラボ鎌倉」で、その熱がさらに加速しました。慶應義塾大学環境情報学部では建築とまちづくりを学び、現在は同大学大学院 政策・メディア研究科 小林博人研究会で、国内外のフィールドワークと実践を通して、地域らしいモノ・コトを作るための方法を研究しています。
これまでのプロジェクトや、工房の中もぜひご覧ください。